山のふもとにある矢津田氏の工房には四季折の草花や生き物たちが集まる。
そんな工房で生まれた鉢には自然の造形をモチーフにした意匠が多く施されている。
所々に見られる特徴的な図柄は古代遺跡から発見された紋様を表現したものである。
自然の造形と文明の軌跡とが混ざり合う独特の作品は、かつて世界各地を旅した矢津田氏ならではのデザインと言える。
矢津田氏の創る作品には製法にも特徴がある。
通常よりもかなり高温の1300℃で還元焼成しているのだ。
それには粘土や釉薬の配合など試行錯誤の日々があったという。
超高温で焼成することにより粘土や釉薬中の金属成分が強還元され独特の光沢を放つ。
さらに釉薬が多く溜まった部分にはクレーター状の模様が現れる。
そうして出来上がった鉢は光の当たり方や見る角度によって様々な表情を見せてくれる。
高温で焼成された鉢は耐久性も抜群で表面のカラースリップ(泥粧)はしっかりと焼き付き剥がれるような心配はない。
細部まで丁寧に描かれた紋様を纏った鉢は単体でも十分に観賞価値がある。